柳楽優弥ファンブログ「ジェットコースターにのって」

柳楽優弥くんズキ。2021年Works「浅草キッド」「太陽の子」「ターコイズの空の下で」「HOKUSAI」「二月の勝者」CM:JRA

[どちらを・柳楽優弥]カンヌ国際映画祭正式出品記念上映会

東京藝術大学で行われた記念上映会に行ってきました!

最初に学長の挨拶があり、次に映像研究科長から映像研究科の紹介があり、
佐藤雅彦教授の紹介もあり…。
思った以上に「大学としてのイベント」でした。
こういう感じ久しぶりでそれはそれでちょっと楽しめましたが、
最初のお二人が「準備した原稿をただ読む」に対して佐藤教授はその場で
笑いもとりながらどんどんしゃべっていくのはさすがCMプランナーしてるだけ
あるなーという感じでしたw

そもそもc-projectというのは、佐藤教授が自分の研究科で毎年卒業生を見送る中で
大抵は卒業作品をぎりぎりまでなんとな作り終わる学年がほとんどなのに
5期生だけは秋には目途が見えて、この優秀なメンバーと何かやりたいと思って
作ったプロジェクトなんだそう。
メンバーは教授+5期生4人の合計5名。
cはカンヌのcで「カンヌを目指そう」ということで最初から作られたようですが
最初に言った時には「何を言ってるの」という雰囲気で、「cってなんなの?」と
聞かれた時に恥ずかしいと皆思ってたそうです。(確かに今は結果を知ってるから
ふーんで終わりますが、ゼロからそれを言い始めたら、何を言ってるの?に
なりそうですよねw)

で、最初に作ったのが「八芳園」。これは3年ぐらいかけて作ったそうで(15分ないのですが)
1つの画を入れるか入れないかで1日終わるような状態だったそうです。

次に作ったのが「父、帰る」。菊池寛の「父、帰る」をある実験的手法で撮ったものですが
15分に収まらず、そもそもカンヌ出品できずw
その後サンダンスに出品することになったそうです。

で、3作目が「どちらを」。

カンヌは少しでも似たような映画、観たような映像だと「他の映画祭でどうぞ」と
なってしまい、常に新しいものが求められるので、3作品とも、従来の映画にはないものを
敢えて取り入れている、とのことでした。

ここまでの軽い前置きを聞いてから、まずは2本の映画鑑賞。

八芳園」。(以下ネタバレです。普段はネタバレは書かないのですが、これらは
あまり観る機会自体がないと思うので今回は書いちゃいます)
八芳園って地方の人が聞いたら「?」となると思うのですが、都内に昔からある
結婚式場の定番の1つです。
そこであるカップルが結婚する訳ですが、その喜びを描く訳でもなく
トラブルを描く訳でもなく、ただひたすら!集合写真を撮る過程を撮っているものでした。
ひたすら正面から(知りもしない)ある親戚が前を向いてただ待ってる様子。
合間にちょっと親族紹介の会話なども入るもののそのほとんどが天気の話、
櫻の話、つまりたわいもない場繋ぎの会話。
後はひたすらカメラを向いて所在なげな人達の顔が写るだけ。
飛行機がゴーーッと音を立てて上を通るとちょっと視線をやるぐらい。
BGMもなし。
いやーーー、眠くなりました。
最後までそれで終了。
わ、わからん…!斬新すぎてわからん!!!


で、後の佐藤教授の解説。
これは「逃げ場のない退屈さ」を描いたものなんだそうです。どおりで!!
人生ってこの結婚式の集合写真の時のように、逃げられないけれども
どうしようもなく退屈な時間というのがある。佐藤教授も実際甥っ子の結婚式の
集合写真で気づいたら隣の人も前の人もあまり知らない人がいて、一言二言しゃべると
しゃべることもなくなり、しょうがないから周りを観察したら、ひさしから落ちた雨が
長年真下の敷石(だったかな)を削り、そこだけ小さく丸く削られているのに感動した…
というか、感動したことにして暇をつぶそうとした、という経験があるそうです。
で、こういう時間を映画にしたことはないし、映画館でこれを観る観客もその
「逃げ場のない退屈さ」を体験できるので、映画館を使ったインスタレーション
(場所や空間全体を作品として体験させる芸術)になるのではないかと思った、とのこと。

なるほど~!そう聞くと全てが納得です。


次に「父、帰る」。
冒頭、3人のおじちゃんが順番にほぼ同じセリフをそれぞれ言い始めます。
ん? しかも背景がどう考えてもどっかのリハ室という感じ。
そこから、家族の会話に入るのですが、その際も「家の中」の舞台装置が中途半端で
ゴザのようなものがしいてあってちゃぶ台などはあるものの、
その後ろには長机があって、数名が眺めてます。
こ、これはオーディション???
そんな違和感がありつつも芝居は進行します。
が、さらに違和感発生!
役の中の人が変わってる…!!あの人もこの人もカメラが切り替わると別の人になってる!
オーディションだから、色んな人が演じてるんですね。
つまり、これは「1つの物語で同じ役を何人もの人が演じたらどうなるか」という
ところが新しい訳です。
私、これは割と好きでした。ストーリーがちゃんとあるから、というのも
ありますが、なんだろう。同じ人物でも複数の人が演じると、解釈が違うので
「別の人」になるんですよね。激しく感情出す人もいれば、抑え気味の人もいて。
なんかそれが、「人は見方によって同じ人物でも違う人物になる」とでもいうような
疑似体験をしたような気がしました。「兄」も演じた数だけの違う「兄」がいる、
というような不思議な感覚。ちょっと上手く言語化できないのですが…。

こちらの解説。
オーデション映像を繋いで作った。本を読む時ってはっきりとではなくぼんやりとした
人物イメージをもって読むことが多いと思うが、それと同じように人のイメージを特定
させず、ストーリーの方が残るように、つまり本を読む感じにしたかった。
が、これはちょっと意図と違って、やっぱり誰か印象的な人が残ってしまった。
とのことでした。

なるほど。こちらは確かに意図とはちょっと違う風に受け取りましたが、
面白い試みだと思いました。いっそオーディションということにせず
本格的な撮影なのに、人が入れ替わる、という方がその試みがより浮き出たかもしれないと
思いました。

で、いよいよ3作目「どちらを」。
川村元気さんに入ってもらった。今までのc-projectでできなかったことをやりたかった。
ということだけ前フリがあって、映画が始まりました。

「どちらを」はもしかしたら上映の可能性がまだある、とのことだったので
一応現時点では細かいネタバレは避けますね。(1年経っても上映機会がほぼなければ
いつかネタバレも書きたいです)

あらすじだけは書きますと、たえ(黒木華)がある手紙をきっかけに息子を父親に
会わせにいく、というもの。その間にいくつか「選択するシーン」が出てくるのですが、
肝心の選択するシーンは映されず、選択しおわったシーンにとんでいるという演出になっています。
それこそがタイトルの
「どちらを選んだのかはわからないが、どちらかを選んだことははっきりしている」
なんですね。
父親役が柳楽くんです。
あらすじは知っていたので「最後会うシーンだけに登場するんだろうな」と思ったら
回想シーンにも出てきたので思ったよりは出番ありました。
とは言っても2シーン、正味1分ないぐらいですが。

どっちかを選んだんだろうなとはわかるけど、どっちを選んだのかわからない、
というコンセプチュアルな骨格の物語であるにも関わらず、もうダントツに
「映画」になってました。
1つはやはり華ちゃんと柳楽くんの演技がズバ抜けていたということ。
もう1つは「画」が色も画角もズバ抜けていたこと。
明らかに「映画という作品」としての質が違いました。
その分、ちゃんと「物語」としても心に入ってくるんですよね。
たった14分でもそこに人がいて、ドラマがあるんです。
だからこそ、そのドラマの一部分が隠されてしまう時に、すごい妄想力を
働かせることもできるんです。

学長が挨拶で「受賞にかなり近かったと聞いた」とお話されてましたが、
納得です。

これは3つ続けて観た方が違いがよくわかるので、3つ全部観れてよかったなぁと
思いました。

で、3つ終わった後のアフタートーク
佐藤教授と、c-projectの2名平瀬さん、豊田さん、そして佐藤教授と同じく映像専攻の
教授、桂教授の4名でトークでした。
桂教授が実質進行役。

全部はメモれなかったのでメモの要点のままです。
カンヌの受賞連絡の様子など初めて知ったので面白かったですが、
柳楽くんの話題は直接は出てないので、興味ない方は読まなくて大丈夫です…w
敬称略です。

・(佐藤)(3作品とも)自分の中でまだ評価は定まっていない
・(桂)「八芳園」はアート作品としての映像としての完成度高い。意見の相違はなかったのか
(平瀬)振り返って考えてみても、作るのに3年かかっていて物凄い時間
話し合ってきてるので、溶け合って融和してみんな最後は同じことを考えている状態だった
・「八芳園」のアイデアは(C-proの)関さん。結婚式の集合写真を画角ほぼ一緒で
撮ったら面白いのでは、ということから、それでいこうというのは割とすぐ決まった。
・ただテーマはほぼ出来上がった3年目に決めた。
・5期生は3.11の時に修士にいて、当時被災地を撮るプロジェクトなどもあり、精神的に
みんな沈んでいる時に、この子たちはすごく前向きで明るくなれる作品を作った。
それが皆すくわれた。
・(佐藤)「八芳園」をカンヌに出した後、周りに落ちた連絡がくるのに自分たちにはそれすら
来なかった。実際はカンヌは凄く丁寧に対応していたから、落ちた作品から順番に送っている
だけだった。でも知らないから、(手続きをした)平瀬さんのせいではと思って、
応募失敗したと思って、次をやろうと話して「父帰る」を考え始めた。
まさに明日がその初日という時に、連絡がきた。
でもその連絡も「君たちの映画がカンヌで上映されるよ、おめでとう!」というもの
だったので、あまり意味がわかってなくて、ただ上映されるだけだと思っていた。
そしたら(プロデューサーだったかな…?)電話がきて、日本で招待されたのは
1本だけと知って、ようやく事態に気づいた。
・(平瀬)ほんとかなという感じだったので、ちゃんと実感したのは現地で
凄い大きいスクリーンで流れた時、「きた!」と思った。
・(佐藤)結果パルムを獲れなくて、その劇場の出口に皆を集めて、
またやろうと決意を新たにした。だが次の「父帰る」が30分になってしまって
どうにも15分にはならないぞと気づいて(薄々気づいてたそうですがw)、
出品をあきらめた。
・(平瀬)でも「父帰る」の後、次やろうにもお金がなくて途方にくれていたら、
佐藤さんと川村さんの出会いがあって、合同で作る方法もあるんじゃないかという
方法が見えてきた。
・(桂)川村さんとやってみてよかったことって?
・(平瀬)映画のプロとしてやってる人とやれたことが大きかった。
本業の人との融和を目指した。プロ中のプロが集まってくれた。
・(桂)お金がないって言ってたけど、映画制作って演者に一番お金かかるんじゃないの?
・(佐藤)俳優ってだけじゃなく全体的に動いてくれる人が多いとお金がかかる
・(桂)(「どちらを」は)映画になった。映画の文法ができてる。
俳優のポテンシャルを引き出している。黒木華さんのバスのシーンの視線が最後まで
残っている。
・(佐藤)黒木華さん、印象的だったことが2つあって。(でも話の流れで1つしか
披露されませんでした…残り1つが気になる)
黒木さんにはまだ物語ができていない時からプレゼンをしたんです。
コンセプトを説明する小冊子だけで。
正直にカンヌを目指すということも話して。
そしたら事務所の社長も「すごくいいお仕事がきたわね」って言ってくれて
すごいプレッシャーだったけど、クランクイン(食卓のシーン)の時に
「佐藤さん、私はこのコンセプトを知ったものとしてやるんですか?
それとも映画として撮るんですか」と聞かれたんです。これにはすごいドキっとした。
すぐに「映画を撮ります」と返事をしたら、すぐに「はい」と言って理解してくれて
そこから演技してくれて。バスのシーンはこの理屈っぽい企画を映画にしてくれたと
思うので、僕もダントツに好きなシーンですね。

・(桂)今後について一言を
(すみません、以下どっちが佐藤教授でどっちが平野さんかわからなくなりました…)
・やはり撮影のデジタル化の意味、フィルム時代は必要分しか撮れなかったが
今は膨大に撮れる、そのことと、自分はメディア映像出自なので、メディアと鑑賞者の
関係性はずっとテーマになると思う。
・この間4年ぶりのカンヌなので不安だった。みんなに忘れられてると思ったので。
でも実際行ったら、「八芳園のチームじゃん」と声をかけてくれたので、
あの作品はやはり最初の作品としてよかった。
クラウドファンディングでカンヌにまた行くと言ったので、それを目指す。
・(豊田)父帰るとどちらをは映画に歩み寄った2作品。
よく「なぜ5人も監督がいるんだ」と言われるが、3作品とも個人的なテーマを
撮ろうと思ってなくて、共同研究のテーマ発表と思っている。
ということを考えると、やはり今後もメディア出自を大事にしたい。





なんか1日経ったら記憶が抜け抜けで(汗)
上記も全部ニュアンスでってことでお願いします。

カンヌのノミネートが割とぬるっとしたものなんだというのがわかって
面白かったですし、思った以上にメンバーの皆さんが「メディア出自」の自分たちと
「映画を撮るプロ」を別で区切っているのも、新鮮でした。
私からすると似たようなもんなんじゃないの?と思っていたので。
でも最後の豊田さんの「個人のテーマを撮ってるのではなく共同研究のテーマ発表」
と言ってるのを聞いて、なるほどなぁ…と思いました。

でも一方で、「寝ても覚めても」の濱口監督もメディア映像化出身なんですよね。
こちらはバリバリの長編商業映画。
うーむ、やはり区別がよくわからない…w
とにもかくにも、これほどティーチインがついててよかったと思う上映会は
ありませんでした。
映画だけみたら(特に「八芳園」)訳がわからないままだったと思います。

「どちらを」。なかなか難しいかもしれないですが、上映機会あるといいなぁ…。
今まさに検討中のようです。